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■ ごあいさつ


 徳島大学大学院
 臨床神経科学分野(神経内科)
 教授 梶 龍兒
 著書 「ジストニアとボツリヌス治療/診断と治療社」
「不随意運動の診断と治療/診断と治療社」
「Physiology of ALS and Related Diseases」


神経疾患はとても難しいし、なおらない病気ばかりだという印象をもっている方はたぶん多いのではないかと思います。
私も小学4年生のときに無菌性髄膜炎で2ヶ月間入院していたことがありました。私の前で小児科部長の先生が両親にむかって「この病気はなおりません。なおってもひどい知能低下がきますよ」と説明されたのを今でも思い出します。

それまでは勉強などあまり好きではありませんでしたが、このまま勉強ができなくなってしまうのではないかと心配する親の目もあり、とてもあせったのを思い出します。

学生時代から神経疾患はわからないし、なおらないと思っていましたが、脳という臓器がこぶしを2つ合わせたぐらいの大きさで悲しんだり、笑ったりすることを考えるととても不思議に思えてきました。そういうこともあって自分が神経をみる医師になりましたが、決してなおらない病気ばかりではないということがよくわかりました。

神経系の病気は広汎なもので、日常でよくある手のしびれから、命にかかわる難病まで非常に種類が多いものです。とくに後者に苦しむ患者さんにとって、病気のことは一生の一大事で、「少しでもなおる道はないか、すこしでも症状をましにする手立てはないか」と、全国の施設を回っておられる方も大勢おられます。我々の専門の病気に筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病があります。
この病気は発症後3-4年で全身の筋がピクつきながら萎縮し人工呼吸器をつけないかぎり死にいたる大変恐ろしいものです。

以前京都で働いていたころ、ある設計技師さんが、仕事でよく使う右手がだんだんとやせてきて、他の病院でALSといわれたということでやってきました。見てみると右手にピクつきがあり、手もやせています。これはALSだろうと思いましたが一応筋電図検査をしてみると、「伝導ブロック」というとても奇妙な所見がありました。従来、この所見は神経の絶縁体であるミエリンがなくなる病気(脱髄性疾患)でしか見られないとされていました。

それで他の代表的な末梢神経の脱髄性疾患で用いられ始めていたガンマグロブリンの大量静脈注射を試してみたところ、奇跡が起こり、みるみる筋萎縮がなおってきました。
これは後に多巣性運動ニューロパチーとよばれる病気でしたが、その治療法を世界で初めて見つけることができました。このような「奇跡」とでもいうべき経験はその後何回か経験することができました。


このような経験を通して思うことは次の2つです。

忙しい日常の臨床であっても、「何かおかしいな」という患者さんやその所見があれば頭の片隅においておくこと。教科書に書いてあることは実際に患者さんを苦しめている病気のごく一部でしかありません。まったく同じ症状の患者さんを次にみれば、これは新しい病気です。なにか理屈に合わないことがあれば徹底的に追求すべきです。その努力の中から新しい発見が出てきます。

2つ目に、わからない、なおらない神経の病気であっても、決してあきらめないことです。他の人がなおせない病気をみて、それがなおせた場合、患者さんにはとても感謝されますし、医師の能力が問われる時代にあってこのような能力を身につけることは医師として人生を生き抜くのに大きな力になります。


21世紀は脳の世紀といわれます。いろいろな臓器の病気が遺伝子レベルから解明される時代にあって脳だけは正常の機能すら十分に明らかにされていません。少子高齢化を迎える日本で高齢者の病気の大半は神経疾患です。例えばアルツハイマー病や脳卒中(およびその後遺症)を治療したり予防したりする手だてが見つからなければわが国が経済的にももたなくなってしまいます。これら神経疾患をきちんと見ることができる力は、単に神経内科医だけではなく一般の開業医の先生方にとっても必須のものになってきています。

さて徳島大学神経内科はまだ正式にできて4年たらずで、全国の神経内科の中ではもっとも新しい教室ではないかと思います。特色として、わかりにくい神経疾患を診断するために必須の筋電図や誘発電位・脳波などの神経生理学的な検査を1から勉強することができることがあります。
例えば、毎週木曜日の1時から私自身が筋電図の検査を若い先生方と一緒におこなっています。見学はいつでもできます。

また、不随意運動など実際に患者さんをみなくては勉強しづらい分野ではビデオを用いた症例検討を毎週行っています。この治療に必要なボツリヌス療法など実際について勉強することができます。
神経疾患のなかでも治療のできるものが多い多発性硬化症や筋無力症などの免疫性の病気についても深く勉強することができます。またもっとも難しいとされているアルツハイマー病やALSなど神経変性疾患についても遺伝子研究をとおして治療法をみつける努力をしている研究グループがあり、つぎつぎと成果をあげています。これらの分野のいくつかは国際的にも認められ、これまでにも多くの若い先生方が海外留学をして、世界的に活躍されています。

徳島はとても便利なところで、京阪神からはバスにのれば1-2時間で来れますし、飛行機でも東京から1時間です。ぜひ1度遊びに来てください。

一緒に「なおせない」病気をなおしましょう!

平成19年3月1日