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留学のススメ



■ アメリカ臨床医学留学とその後の進路について
  徳島大学神経内科 講師 野寺裕之

 

私は大学在学中からアメリカ臨床医学留学を志し、Neurologyレジデント(Indiana州Indiana大学)、EMG(筋電図)並びに神経筋フェローシップ(New York州Rochester大学)を経て、ハーバード大学のassistant professor(Massachusetts州Beth Israel Deaconess医療センター)までの経験をしました。アメリカ臨床医学留学を志す学生さんや若い医師に私の経験がお役に立てば幸いです。具体的な相談があればメールで受け付けます。

hnodera@tokushima-u.ac.jp(野寺裕之)

 

(1)  USMLEについて:試験情報がネットで溢れている時代ですので割愛します。なるべく良い点数で受かるのがポジション獲得への鍵となりますので、学生時代に受けるか、または初期研修医の時に受けるか、など戦略が重要となります。

 

(2)  アメリカ臨床研修の体験:医学生の時はMayo Clinicなど有名病院が比較的容易に受け入れてくれます。私は国家試験受験直後にIowa大学のNeurologyに2週間お世話になり、非常に有意義な経験でした。ただ、いま思えば責任の無いお客さんと正式なレジデントでは苦しさのレベルが全然違っていましたが・・

 

(3)  レジデンシーの応募について:大学卒業直後あるいは1,2年の卒後研修後に応募をチャレンジする人は困難を覚悟してください。アメリカの医学生は4年間の大学を卒業した後、狭き門のmedical schoolを目指します。Medical school入学のために研究をして履歴書に論文を載せることが一般的であるため、日本からのレジデント応募でも論文を書いていることが競争力を高めるため重要です。学生時代の研究室配属などで論文を書くチャンスがあると思いますが、希望の臨床分野に近い分野の論文を書くことで、昔からその臨床分野に興味があったことをアピールできます。その点、アメリカに研究留学して臨床研修に応募するほうが論文数やアメリカでの適応能力で有利ですが、臨床研修終了後の年齢がいってしまうこととなり人生設計の点で考慮が必要です。

次に応募書類には3通の推薦状が要求されますが、アメリカ社会一般に言えることですが誰からの推薦ということが重視されます。外国の医師の推薦状は有名な教授からならば重視されますが、殆どの場合は無視されます。アメリカの医療のシステムやレベルを熟知しない人からの推薦状には意味がないと考えるからです。日本からの応募の場合アメリカ専門医からの推薦が重視されます。

 

(4)  レジデンシーの難易度について:内科系よりも外科系やマイナー系が困難なのは明らかです。莫大な学費の借金を抱えたアメリカ人医学生は収入の多い外科系を目指すからですが、労働条件の良くない一部の外科は外国人フェローが多くを占めています。これまでの日本人医師は圧倒的多数が内科系に進んでいます。Neurologyも一般内科に準ずる難易度ですが、2点考慮すべき点があります。

まず、一般内科の3年のレジデンシー修了では日本ではほとんど通用しないのではないか、と言う(外から見た)印象です。内科レジデントはほとんど手技をせず、フェローになってから行います。日本のように専門化した内科ではフェローシップを終了して専門医になって初めて(総合診療部や過疎地勤務を除けば)存在価値があるのでは、と考えます。つまり、内科系を目指す場合は3年の一般内科に加え、2、3年の循環器・消化器・腎臓病などのフェローシップが必須と考えます。循環器などでは一般循環器フェローシップの後にエコー、カテーテルなどの専門フェローシップがあり、通算7,8年かかって初めてアメリカの先端医学を修めたことになります。それに対してNeurologyは1年間の内科あるいはTransitionalというローテート研修の後、3年間のNeurology研修で終了ですのでその後にフェローシップを1,2年しても5,6年で修了できるところが有利なところです。

第二点は内科ではフェローシップに進む際にマッチングがあります。高収入の循環器や消化器は難易度が高くなり、希望の専門に行けない可能性があります。Neurologyはレジデント修了後開業する人もいるためフェローシップ自体の難易度は高くなく、同じ大学内での進学では無競争でポジション獲得できる場合も多いです。

有名大学病院ではNeurologyレジデントのポジション争いはし烈です。私の所属していたボストンのBeth Israel Deaconess Medical Centerには数百通の応募があり、数十人のみ招待されます。私も何人かの応募者を面接しましたが、面接に呼ばれていたのはアメリカ人学生のみで論文も何本か書いており、在学中の成績も優良な人たちでした。そこでは外国人の入る隙間は無いようでしたが、中西部などの病院では比較的外国人が入りやすくなります。事実私はIndiana大学でレジデンシーをしましたが、非常に良い研修を受けることが出来ました。Chairmanは当時アメリカ神経科専門医認定委員会の委員長を務められており、毎日朝7時からのmorning reportでは直接鍛えてもらいました。

外科系へ進むことは不可能ではありませんし、事実少数の日本人医師が外科レジデントやスタッフとなっています。アメリカでのレジデントをせずに心臓外科などのフェローシップをする医師もいますが、アメリカでの専門医資格を取れないことが殆どです。専門医資格は病院勤務に必須なことが殆どですが、雇用先が強くサポートすれば専門医資格がなくても採用され、臨床活動を行うことは不可能ではありません。

Neurologyでいえば、多発性硬化症に代表されるNeuroimmunologyの分野はアメリカでの臨床治験がダイナミックに進んでおり、日本で使用開始できるより数年早いレベルで進んでいます。私の選択した筋電図(EMG)フェローシップは日本でも優秀な指導者のおられる施設なら似たような研修も可能ですが、検査症例の数が日本とは桁違いです。アメリカの大学病院では一日10件程度を毎日、つまり月に200件行う検査室は普通であり、多数の検査室を同時に走らせている大学も稀ではありません。筋電図専門医も4,5人配置されているのがアメリカの大学の常識ですが、日本でそういう体制が出来ている大学は数える程です。

 

フェローシップとその後の進路:フェローシップまで行き、その分野の専門医を獲得できれば渡米の目的は一応達成したことになります。その後の進路を考える上でビザが問題になります。アメリカ国籍や永住権を持っている方は問題ありませんが、ほとんどの日本人はJ1ビザを収得するため、研修修了後2年間の帰国が義務付けられます。それを逃れる方法(visa waiver)はあり、田舎のクリニックや医療過疎地にある大学病院(NYのスラムなど)で働くことは可能ですが選択肢が狭く運によります。最終的にアメリカで働く場合は通常H1bビザを習得し永住権に切り替えることが必要になります。グリーンカードの抽選は高倍率なので、当選しない場合研究で数本論文があればEB1Aという枠で1年以内に永住権が取れますが、良い弁護士に応募書類を書いてもらうことが重要です。アメリカの大学でポジションを得る場合、レジデントやフェローシップをしたところでの就職ならば話は容易ですが、私の場合は無関係のところに応募したため、10人近くの人と面接をしました。サラリーマンとして病院で働く日本とは異なり、アメリカの病院では自分の給料は自分で稼ぐというのが基本です。Departmentの赤字が続けば主任教授がクビになるので上からのプレッシャーは強いです。診療報酬の明細が毎月本人に配られ、給料とのバランスが明記されます。診療による収入が少なければ外来を増やすよう言われます。もう一つの道は研究グラントをとることです。グラントから自分の給料に充てることができるので、外来をほとんどせず研究に専念することができます。問題はアメリカ財政赤字によりNIHグラントの枠が減り、研究室を解散する例も最近多いことです。

 

(5)  日本での進路:アメリカ専門医取得者が日本に帰国する場合、考慮すべきことがいくつかあります。まず、全ての病院がアメリカ専門医を歓迎するわけではありません。仕事の仕方も違いますし、疾患も違います。アメリカのみの臨床経験では日本に局在した疾患を見ることが無いので、経験を積みなおすことが必要です。一匹狼で一般病院に就職した場合、日常診療に埋もれてしまいこれまでの経験を生かせないこともあると聞きます。日本でアメリカ式教育をしたい、という熱意もアメリカでは豊富なサポートスタッフがいたから充実した教育プログラムを実践出来ていたことに気づくかもしれません。私どもの教室では梶教授が世界神経学会(WFN)の理事であることから海外との交流は日常茶飯事です。海外の研究者との共同研究も行われていますし、私自身他国での講演も何度か行かせてもらっており、アメリカでの経験が生かせる職場です。国内的にみてもNeurologyのレジデント経験者は教授の世代には比較的多いのですが、受け入れが厳しくなったそれ以降の世代にはほぼ皆無です。臨床研修経験者はユニークな視点を提供できるため重宝されます。

 

(6)  まとめ:アメリカ臨床医学留学は決して容易な道ではありませんが、努力した分だけ充実した研修を受けることが出来ます。より良いプログラムで研修をするには周りのサポートが非常に重要です。また日本の医学レベルの高さも世界有数であり、発展途上国のレジデントとは違い日米で条件を比較しながら将来の勤務先を選べることができるため、視野を広く持つことも大切です。徳島大学神経内科は梶教授が世界神経学会理事などの職を通じた国際ネットワークを持っており、またアメリカ神経内科専門医資格を持つ野寺も推薦状などを通じてサポートが可能です。Neurologyレジデンシーを修了した日本人は数少ないため、アメリカでの経験を踏まえ日米で活躍することが可能です。


 
Beth Israel Deaconess医療センター(ボストン)(スタッフ医師として在籍)

 
Indiana大学病院(Indiana州Indianapolis)(Neurologyレジデントとして在籍)